生体の分泌する代表的なタンパク質としてクモの糸の物理化学的研究に取り組んできた。クモの糸(命綱)の強度がクモの体重のちょうど二倍であり、命綱は電子顕微鏡で二本のフィラメントであることがわかった。一本が切れても、もう一本でクモの重さを支えることができ、一本は“ゆとり”として働く。クモの命綱は究極の危機管理システムを持つ(S. Osaki, Nature, 384, 419 (1996))ことを見出した。この“2”という数値に基づく危機管理の考え方は、紐などの工業的素材のみならず、橋や家の構造物や社会における様々な事柄の危機管理に適用できることがわかった。
クモの糸は絹糸よりも高い紫外線耐性を持つことを明らかにした(S. Osaki, K. Yamamoto et al., Polym. J., 36, 623 (2004))。加えて、クモの糸は紫外線によって力学的に強化されるという性質を見出した(S. Osaki, Polym. J., 36, 657 (2004))。
クモの糸が強いことを証明するために、クモの腹から集めた糸で作った直径3 mmの紐に66 kgのヒトがぶら下がることに世界で初めて成功した(朝日、読売新聞、NHK他)。本結果は、クモの糸の防弾チョッキや縫合糸などへの用途を広げる道を開いた。
実用化レベルのクモの糸の機能性を明らかにするために、クモの糸でヴァイオリン用の弦を作成した(朝日、読売新聞、他)。周波数解析をした結果、クモの糸の弦はガット弦や金属弦と比べて非常に多くの倍音が観測され、柔らかく深みのある音色が得られた。その結果、クモの糸はヴァイオリンの弦として独特な音色を示す素材であることを証明し(S. Osaki, Phys. Rev. Lett.., 108, 154301 (2012))、その音色はBBC, ABCなどの世界25か国以上のマスコミから放映された。